【米穀VIEW981】漂流する米政策 Ⅵ 平成30年産に向けて⑫ 髙木勇樹氏に訊く② 知事の玩具になっていないか、高級銘柄「ブーム」


髙木勇樹氏(元・農林水産事務次官、元・農林公庫総裁、現・日本プロ農業総合支援機構理事長)

髙木勇樹氏(元・農林水産事務次官、元・農林公庫総裁、現・日本プロ農業総合支援機構理事長)

毎度お馴染み「ご意見番」の一人である農林水産アナリストの髙木勇樹氏(元・農林水産事務次官、元・農林公庫総裁、現・日本プロ農業総合支援機構理事長)に訊くシリーズ。去る11月21日にインタビューしたもの。

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――話を戻しますが、逆説的に言うと環境整備はまだできていないと?

髙木 それは……全国組織なるものの実態が見えて来ないと何とも判断しようがありませんが、少なくとも今の「成功体験」に軸足を置いている限り、「米政策改革大綱」なり「平成30年産に向けた」原点とは、ちょっとかけ離れてしまうだろうなとは思います。

――成功体験?

髙木 原点とは別に単なる事象として、現実に在庫は減っていますし、価格は3年連続で上がっていますし、消費量も「順調に」減っているではありませんか。

――消費の減少が「成功体験」ですか。

髙木 毎年8万t減る前提で基本指針を作っているのですから、消費が減少しても構わないと考えていると受け取られても仕方ないでしょう。消費拡大に対してやる気もないし。「米消費拡大」という単語が農水省の助成事業から消えて久しいと書いたのは、確かあなただったではありませんか。

――それはそうですが……。

髙木 「原点」と言えば、もう一つ振り返っておくべき原点があります。それは、日本の米、稲作が「大事だ・大切だ」と捉える場合の意味あい・根拠です。

かつては、日本の文化伝統の基盤だった、水田の多面的機能を発揮していた、地域農村の活力の基になっていた、何より日本人の主食だった――こうしたことから、「米は大事だ」と主張し、国民も「ああ、そうだね」と納得していたはず。

ところが今はどうか。例えば飼料用米の生産です。確かに、少なくとも水田の総合的な活用ができている側面はあります。しかし一方で、「国民の主食である」はずの米の需要先が変化してきています。家庭食から中食・外食へとシフトしつつある。そうした需要環境に対応した米づくりも、米、稲作は「大事だ」というなかには含まれているはずなんです。

需要を無視した供給などありえません。役所に言わせれば「やっています」でしょう。それは事前契約を奨励したりといった行動に表れているわけですが、しかし現実には飼料用米助成と主食用米収入とでバランスをとる政策であれば、作りやすい飼料用米に向かって主食用米が減るのは最初から目に見えています。しかも徐々に専用多収品種が増えていると言いながら主食用品種でもいいですよがまかり通っているものだから、販売単価の安い、本来は業務用に向く米を飼料用米に回すのは当然で、むしろそのようなインセンティブを与えられているのだと生産者が「誤解」するのも致し方ないことでしょう。

業界内から備蓄米の放出を求める声があがっています。実現しなくても引取期限の先送りなども含めて、需要の主体となりつつある業務用に回る米の主体が古米化しつつあります。すると不思議なことが起こる。ヒトが主に古米を食べ、家畜が新米を食べる。「米は大事だ」と言いながら、客観的に見れば非常に不思議なことが起こり、その不思議なことを誰も不思議なことと思わなくなってしまっています。

飼料用米、エサ処理という政策手法は、何も突然降って湧いたものではなく、古くからありました。その代表例が昭和46~49年(約740万t、約1兆円)と昭和54~58年(約600万t、約2兆円)の二度にわたった過剰米処理です。当時の国民感情は「お米を家畜に喰わせるのか」。つまり飼料用米に対する抵抗感があったわけですが、今やそれもない。ようやく業界が飼料用米と備蓄米との交換を主張し始めたようですが、恐らく大変なコストがかかるから現実には無理でしょう。また足りなくなった業務用を埋めるためカルローズなど外国産に関心が集まりましたが、これも値段が高くなりすぎました。

これらと裏腹な関係にあるのが、高級銘柄です。日本の米は確かにおいしくなりました。これはもう生産者の努力だし、関連する試験研究機関などの努力の賜ではあるんですが、例えば穀検の食味ランキングで最高位「特A」にランクされたのが28年産で44銘柄でしたか。それ自体は決して悪いことではない、食味や単価が高い米を開発するのは決して悪いことではありませんが……しかし最近のブームは、何か各県知事のオモチャになってしまっている感があります。確かに知事の政治的パフォーマンスに供するには良い材料かもしれませんが、ではそれで農家所得は本当に向上しているのか。一部の方は向上しているのかもしれませんが、一方で「そんな高い米でなくても大丈夫」な世界は放ったらかしのまま、8万tずつ需要が減退する世界を受け容れてしまっています。片や狭い需要を相手に44銘柄が消耗戦を強いられている。もうそろそろ知事のパフォーマンスに踊らされているのだと気づくべきではないでしょうか。ああした高級銘柄の売り出し宣伝にどれほどのコストをかけているものか。

もっと冷静に見て、将来を考えるなら、業務用・加工用・輸出用の米づくりに注力すべきではないでしょうか。また、そうした方向をめざしている農家もいないわけではありません。今はまだ本当にニッチですが、ピラフ用やカレー用の品種を作ったりといったことです。

いずれにせよ今後の米づくり、稲作を本当に「大事だ」と考えているなら、そうした方向性の政策が自然と出て来るはずなのです。農家も、持続的に経営の安定を考えるなら、そうした方向にいくはずです。様々な品種なりを組み合わせる、あるいは畜産でも野菜でも果樹でも他の品目との複合経営にする。そうした経営全体を対象に収入保険も出来たわけですから。畜産だけはちょっと別の世界ではありますが。ともかく持続性のある安定した経営をめざすなら、原点に立ち返って日本の米、稲作を大事だと認識、意識していけば、そうした方向性に向かうはずだと私は思うのですが。

――今の複合経営や多品種生産といった取組みのなかに、翻って本作としての飼料用米生産も含まれてきますね。

髙木 その通り。コストダウンのためなら、県段階でも出来ることは数多いはず。例えば、もち米が団地化しているのはコンタミを恐れてのことではありますが、同じ理由で飼料用米の助成対象を専用多収品種だけに絞れば、それこそコンタミを恐れて団地化が進みやすくなります。特に大規模な農家は、そうせざるを得なくなるでしょう。

今さらながらではあるんですが、飼料用米の政策を始めた際に、例えば10年後には専用多収品種だけに助成対象を絞りますと言っておけば良かったんです。それまでは主食用品種でもいいけど、10年後には対象から外しますと。その10年後は努力目標であって、十分に専用多収品種が行き渡っていなかったら、先送りしても前倒ししても構わない。

――今からでも遅くないのではありませんか。

髙木 それはどうでしょう。理屈としては今から何年後に助成対象を絞りますと言えますが、農家側からすれば「既得権益」なのであって、既得権益者はそれを期待しているということ。「政策が変わる」と既得権益を「引き剥がされる」と考え、「ケシカラン」となるのではないでしょうか。だから「今さらながら」と申し上げた。最初から努力目標を明記しておけばと。

――絞るかどうかは別にして、現実に主食用米の収入単価が3年連続で上がった結果、例えば60kg換算すると、飼料用米助成より主食用収入単価のほうが2,000円ほど開いてしまいました。ここまで開いてしまうと飼料用米インセンティブが薄れ、来年は主食用米に戻って来る人が続出するのではないかと心配しているのですが。

髙木 そこを回避するためには、単純に考えて、飼料用米の助成単価を上げるか、主食用米の収入単価を下げるしかありません。しかし、財政的に見て飼料用米の助成単価を引き上げるのは論外でしょうし、一度上がった主食用米の収入単価も、先ほどのように「既得権益」化してしまっているので、引き下げるのは容易ではないでしょう。では、その2,000円の開きをどうするか。放置しておけば、確かに来年はインセンティブが弱まるでしょう。役所としては、「自然と専用多収品種に傾斜していく」ことを期待しているのかもしれませんが、恐らくそうはならないでしょう。例えば先に延べたように、何年か後に専用多収品種に助成対象を絞るという段階的な目標を立てる。

そこへ向けて、助成単価を少しだけ上げる。また飼料用米の本作化に向けた条件整備として、団地化助成を加えるとか、農地バンクも優先活用するとか。これなら例の10a7,500円も問題にならないし、少なくとも一時的に財務省を説得する材料としては有効なのではないでしょうか。

――そううまくいきますかね。

髙木 いかないでしょうが(笑)、そうしたことをやりきっていかないと、例の「成功体験」で皆さん「いいじゃないか」状態になっていますから、またもや停滞することになりかねません。

――極端な話、30年産からの政策が初年度にして大失敗して、来年の今頃には新たな政策論議をやってるんじゃないかという意地悪な見方もしているのですが。

髙木 大きく今の政策の流れを変えられるほど、与党農林幹部に力があるとも思えませんが。

〈米麦日報2017年12月5日付より〉

 

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記事提供元:https://www.ssnp.co.jp/news/rice/2017/12/2017-1205-1103-14.html
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